おうし座パパの子育てエッセイ

5人の子どもを育てたパパのこころ温まる記録

父親になった瞬間

 「生まれましたよ。」平成2年3月下旬、病院から1本の電話が入った。この日より2日前、妻は破水し緊急入院となった。しかし陣痛はなく、すぐに生まれる様子がなかったため、私は自宅待機となった。そして電話を受け、自転車で病院へ向かった。この時はまだ父親になった実感はなかった。

 病院へ着き、妻の病室へ顔を出した後、新生児室へひとりで向かった。ガラス張りの部屋で沢山の赤ちゃんが眠っている。部屋の奥に大きな秤が置いてあり、その上にひとりの赤ちゃんが大きな声で泣きながら横たわっていた。とても大きな声である。どの子かなと思いながら自分に似た顔を捜すがわからない。あの大きな声で泣いている子は違うよな、と思いつつ捜す。

 そこに看護師さんが来られたので聞いてみると「あの子です。」と泣いている子を指さした。その瞬間、私の眼はその子に釘づけになった。そしてあの子大丈夫かな~と心配になった。私は泣いている我が子をずっと見ていた。何もできずに唯々見ているだけだった。私が父親になった瞬間はまさにその時であった。

 その後、主治医の話を聞きに行った。感染症の心配があるので治療をしていると説明を受けた。この日、自宅近くの公園の桜は満開だった。